半夏生
陰陽反転 節目の植物たち
夏至は一年でいちばん太陽がたかくのぼる、日のながい一日です。
陽気が極まり、陰気に転ずる節目の日でもあります。
日本には夏至の国民的お祭りや目立った行事がないので、うっかりすると気づかないまま過ごしてしまうこともめずらしくはありません。
過去記事、【ハーブ天然ものがたり】カモミール で綴りましたように、植物を主役とした夏至祭は、世界をみわたすとさまざまな趣向で、にぎやかに開催されています。
木々の葉や、花でつくられた飾り物がふんだんに街中を彩り、夏至祭前日の夜に摘むハーブは特に薬効が高いと信じられています。
夏至の夜は、神秘的で超自然的なものたちとの結びつきが強まると信じられており、精霊たちに捧げる花冠の花を摘みに行くのも楽しみのひとつだとか。
摘んできた花々を囲んで冠を編み、できあがったものは身に纏い、髪に飾り、大きなオブジェを作って天高く掲げ、精霊たちに捧げます。
花々を囲むだけではなく、水辺で焚火を囲んで瞑想する地域もあります。
どこからともなく人が集まり、しずかに座って炎を見つめ、精霊たちに感謝や喜びを伝えてまた静かに去ってゆく。
各国で微妙に違いはありますが、四つ辻や空き地、湖畔の近くでかがり火をたき、ハーブをくべる祭事もあります。
カモミールは聖ヨハネの日までに花を摘んでおかなければ、魔女ヘカテがお小水をひっかけてまわるという言い伝えがあり、魔女の小水まみれになる前にせっせと摘んで、夏至祭にはカモミールの花も盛大に使われます。
夏至を過ぎるとふたたび日はみじかくなり、夜がながくなっていきます。
太陽が一番かがやく夏至の日は、植物たちが生気をみなぎらせるその刹那を、精霊たちと一緒になって楽しむ、とくべつな1日と考えています。
12干支カレンダーでは6月は午月です。
年中で、いっとう火の陽気旺盛なるこの時期は、さらに滋養あふれる雨が天からふりそそぎ、地上世界を生き抜く森羅万象が、潤沢な光と水によってぐんぐんはぐくまれてゆきます。
最高位の水と炎の饗宴が、絢爛豪華にもよおされる夏至のころ、ヒトも情感ゆたかになり、世界にむかってこころとからだが自然とひらかれ、共感力が豊かになってゆきます。
夏至の候、2023年は6月21日から。72候では、
乃東枯-靫草(うつぼぐさ)が枯れるころ
菖蒲華-あやめが花を咲かせるころ
半夏生-半夏(からすびしゃく)が生え、半夏生(はんげしょう)の葉が白く染まるころ
となります。
冬至のちょうど反対側に座す夏至のころは植物にとっていちばんの成長期。
野山も平地も河原にも、最大出力で緑が生いしげり、競うように花を咲かせます。
そんななか、まるで盛夏に背をむけるように花枯れてしまうのがうつぼ草です。
うつぼ草のものがたりは、72候【花鳥風月】冬至の候|白木海月@Shield72°公式note に綴っています。
夏至のさいごの候、半夏生(はんげしょうず)は雑節のひとつでもあり、夏至から11日目とかぞえていた時期もあったようです。
現在では太陽黄経100°を通過する日となり、2023年は7月2日になります。
夏至 6月21日 黄経90° かに座0°
小暑 7月7日 黄経105° かに座15.00°
この時期にふる雨を半夏雨(はんげあめ)とか半夏水(はんげみず)と呼んで、古人は雨にあたらないよう気を締めていたといいます。
天から毒気がふるなどと伝承されてきたので、井戸には蓋をしたり、野菜の収穫をしないというしきたりもあったとか。
半夏生という名にまつわる植物はふたつあります。
ひとつは半夏(はんげ)またの名を烏柄杓(からすびしゃく)。
みずばしょうなどでおなじみの、棒状の花をつつみこむような苞のカタチは仏炎苞(ぶつえんほう)とよばれ、仏像の背後にある炎をかたどる飾りに似ていることから命名されました。
神仙たちのはなつ光を炎のように描いた宗教画はたくさんありますが、花をつつむ苞を仏炎苞と名づけた古人のセンスにしびれます。
苞(ほう)は花の基部にある特殊化した葉のことで、細長く伸びたり、花びらみたいに色を変えたりする葉っぱの変化へんげワザです。
( ↓ 赤い苞でおなじみのアンスリウム)
からすびしゃくは、人がつかうには小さすぎるけれど、「烏(からす)がつかうのにちょうどよい柄杓(ひしゃく)」のようなカタチと大きさだね、ということで命名されたそうです。
水をすくう柄杓でもあり、自灯明の存在たちがはなつ光(炎)にも比喩された からすびしゃく の苞は、ちょうどこの時期、地上にもたらされる恵みの雨と太陽のひかり、どちらもしっかりと受けとめられるよう設計された、植物界の魔道具のようだと感じます。
からすびしゃくは史前帰化植物と考えられており、日本薬局方にも収録されています。
半夏は漢方薬の名まえで目にすることも多いと思いますが、昔は漢方になる根茎の部分を採集して薬屋に売り、小銭をためていたのでヘソクリという別名ももっています。
去痰作用のほか、吐き気やしゃっくりを鎮める作用があるとされています。
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もうひとつの半夏生(はんげしょう)、別名 かたしろぐさ は、ちょうどこの時期に葉を白くさせて虫をひきよせます。
半分だけおしろいを塗ったみたいに変化するので半化粧という字もあてられる、ドクダミ科の野草です。
水辺や湿地をこのみ、ほんとうの花部分は細ながい花序になり、とかげのしっぽに似ていることから、属名 Saururus(ソーララス)はラテン語でとかげの尻尾を意味します。
花が地味なので大きな葉っぱの表面から葉緑素がぬけて白く変化し、地下茎をのばして水辺や湿地に群生して、一面まっしろな花畑のようにみせかけます。
花がおわるころにはまた緑にもどるあたり、太陽の光アンテナである葉っぱを自在にあやつる、インテリジェンスを感じさせる和ハーブです。
同じドクダミ科のどくだみは4枚の苞を白くして花のように見せ、虫たちをお誘いしますが、白変化のワザは はんげしょう がさきに葉っぱで実験して、効率よく虫たちに受粉をしてもらえたので、どくだみは白い苞をもつように進化したのかもしれません。
【ハーブ天然ものがたり】どくだみ|白木海月@Shield72°公式note
ドクダミ科の植物は繁殖力のつよさから分布域をどんどん広げてきましたが、そのわりに種の数がすくなく、世界のなかでも6種しかありません。
日本に生育するドクダミ科の植物はどくだみとはんげしょう(かたしろぐさ)の2種類だけで、キク科やシソ科、スミレ科など環境にあわせて植生を変化させたり、交配さかんに多種多様なひろがりをみせたクラスターとはちがう進化プロセスを経てきたようです。
野生児であり混じりっけなし、生粋のどくだみ一派エッセンスをまもりぬいてきた背景には、いったいどんな精霊たちがかかわってきたのでしょうか。
(ドクダミ科は)北米および東アジアから東南アジアに分布し、4属6種ほどが知られる。日本ではドクダミとハンゲショウが生育している。
ウィキペディア-ドクダミ科
たったの4属から地球環境にひろがった底力、ドクダミ科ファミリーの大地との結合力は、地上界・土元素界のすべてを受容してしまう、ふところふかさからきているのではないかな、と想像しています。
はんげしょうの生薬名は三白草(さんぱくそう)、利尿作用と解毒効果のたかい薬草として古くから親しまれてきました。
古名かたじろ、江戸時代の本草書「本草綱目啓蒙(ほんぞうこうもくけいもう)」に記載されています。
野生でみかけることも文献も少ないハーブで、古人がどのように親しんできたものか推測の域をでませんが、夏至をこえた時期に天から降る毒気(湿邪)の解毒薬として、塗ったり煎じたりしてきたのではないかな、と。
【薬効と薬理】
利尿作用や解熱、解毒の効果があるとされ、むくみ、脚気、黄疸、でき物、腫れ物などに用いられる
【使用法】
1日量10~15gを300mlの水で、1/3量にまで煎じ服用する。
腫れ物には大さじ2~3杯に400~600mlの水を加え、1/3量になるまで煎じ、これで患部を洗う。
また生の葉に食塩を少し入れてくだき患部にあてる。
また脚気や胸のつかえ、皮膚病などにも有効。/原色牧野和漢薬草大図鑑
国立国会図書館 レファレンス協同データベース
はんげしょうは精油をもつ和ハーブのひとつで、どくだみにも含まれているメチル-n-ノニルケトンという香り成分が多くふくまれています。
湿気の重だるい空気に対抗できるほどのつよい芳香と(個人的には)感じますが、ネット上では「臭気」と説明されているものが圧倒的におおいです。
はんげしょう(かたしろぐさ)は現在、分布域が減少して保護対象になっているエリアもあり、野生でみかけることは少なくなりました。
鑑賞するなら関東の向島百花園、関西の京都両足院が有名どころでしょうか。
夏至-午月-蟹座
夏至のころの水と炎の饗宴は、人の内面にも作用して情感と情熱をゆたかにふくらませてゆきます。
情操がはぐくまれると自然に他者との交流をもとめるようになり、家族や社会、あるいは宇宙のなかで活かし活かされるために、とくていのコミュニティに参加して、感情エネルギーの交流も活発になります。
感情の交流によって自分らしい情緒をはぐくむことに専心すると、慈悲や愛隣、温情などを表現するには繊細さと勇気が必要なことを知り、さらには自分のあずかり知らぬところで、ふりかざした善意の剣によってだれかを傷つけたり、だれかに傷つけられたりする妙を体験することもあります。
あるいは愛し、愛される体験には、共依存やスポイルの森に迷いこんで出口がわからなくなることも、表裏一体でついてまわるのだと知ってしまいます。
内面性がはぐくまれるエネルギーは四大元素界から、水も光も大盤振舞される季節ですから、天空にただよう人の感情に敏感なエーテル成分がふえると同時に、人の身につもると毒に化ける成分もおなじようにマシマシになっていくのだろうな、と。
蟹座の季節に体験する、ふかくてひろい愛情とおなじ分だけの矛盾は、いちど飲みこんでしまったものを同化して均質にする練習になり、ときには(まだ)消化できない異質なものを、排除する判断力をやしなってくれると感じています。
こころのそこから安心できる拠点(おうちや縁ある場所)を神聖なキモチでみたし、かたい甲殻でまもるようにはぐくんでゆくことは、矛盾をはらんだ複雑な善意と悪意を、だれにもじゃまされずにゆっくりと、咀嚼するための安全なサンクチュアリになります。
外の世界を白い葉っぱの境界線でおおう はんげしょう は、色に堕ちてしまった光をすべて吸収する無色の色素、フラボノイドをもっているゆえの白(人の目には)なのだとしたら、ふところふかい蟹座のように、天空にみちるすべての成分を、善悪の判断なしでやさしく受けとめているのかもしれません。
そうして均質に同化できるまでじっくりと、天国の小径も地獄の沙汰も、いっしょに体験しているのではないのかな、と。
蟹座成分をつかいこなせる人は、善意の剣を魔法の柄杓にもちかえて、どんな水(感情)でもすくいあげ、粗雑なものから高尚なものまで、あらゆる感情の受け皿として機能する、エモーショナル・サイクルの魔法使いのようだと感じます。
魔道具・柄杓は、蟹座成分のエクスカリバー。
共感力をともなった感情エネルギーの循環魔法を発動させて、自我の境界線をひとっとび、ヒトのこころにひっそりと咲く地味なお花をさがしあてるや、最高位の太陽光とめぐみの雨を潤沢にそそぎこみ、愛し愛されるというプロセスを同化し均質化します。
聖域をはぐくむことを意識するようになってから、それは自分を愛し、はぐくむことにも通じているんだろう、と思うようになりました。
自分(宇宙でも可)を愛し、愛されていることを「知って、受けいれると」、愛はすべてのコトモノヒトに同化され、均質化され、愛についての考え方も、陰陽反転するほどにおおきくひっくりかえるんだろうな、と。
とくていのだれかを愛し、愛される必要性を、大げさに主張することもなくなり、すべての細胞がすべての身体機能を至極とうぜんにいたわるように、宇宙にひろがるすべてを均質な愛でみたすことができるまで、矛盾だらけの愛情や善悪をかみしめながら、サンクチュアリの育成にいそしみたいと思っています。
からすびしゃくは、わたしたちがみずから発火できること、光の存在であることを忘れないように、仏炎苞のカタチを創造したのかもしれません。
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お読みくださりありがとうございました。
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「ハーブのちから、自然の恵み。
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