aroma72 ハーブ天然ものがたり

魔術から化粧品、厨房から医薬まで。ハーブ今昔、天然もの、所感まじり。

ミモザ/アカシア

君の名は…


梅や桜の開花のころは日本の心、日本の文化を支えてきた植物たちとの邂逅に、さんぽ時間がより一層楽しくなります。


とはいえヨーロッパやアジア大陸、アフリカやオーストラリア原産種も、帰化したものや栽培種など広がって、国境を越えて鑑賞できるのもまたうれしいことです。


春に咲く「ミモザ」と呼ばれる香りよい花もそのひとつ。


ミモザ、アカシア


ミモザはアカシア属の花の総称ですが、ほんらいは学名でミモザと命名されている植物が別にあります。


さらにアカシアという呼称に、日本ではハリエンジュとの混同があって、複数のキャラクターが同居している正体不明感が「ミモザ」の響きに潜んでいます。


アカシアの木は明治のころ日本に入ってきました。


先に導入されアカシアと命名されたのが、現在ではニセアカシアと呼ばれるハリエンジュです。



ややこしいことに北海道ではこの木をアカシアと呼ぶ人が多く、私もずっとハリエンジュをアカシアと思っていました。


じっさいハリエンジュは香りよい蜜源植物で、アカシアはちみつとして市販されているものはハリエンジュの花蜜から生産されています。


アカシア属がのちに輸入されるようになると、先にアカシアと呼称されていたハリエンジュをニセアカシアと呼ぶようになりました。


しかしてさらにややこしいことに、アカシアの切り花が「ミモザ」の別名で流通し、本家の学名ミモザの名をもつオジギソウと混同されるようになりました。




オジギソウ(お辞儀草、含羞草、学名:Mimosa pudica)は、マメ科ネムノキ亜科(オジギソウ属)の植物の一種。

別名はネムリグサ(眠り草)、ミモザ。


ミモザは本来オジギソウの学名に由来する植物名であるが、日本語ではほぼアカシア類の花を呼ぶ名としてのみ使われており、本来は誤用である。

種小名のpudicaは、ラテン語で「内気な」を意味する。


南アメリカ原産で、世界中に帰化している。

日本では沖縄で帰化植物として野外で繁殖しており、江戸時代後期にオランダ船によって日本へ持ち込まれたといわれている。


学名に Mimosa(ミモザ) の名をもつお辞儀草は、人真似・身振り劇(パントマイムの源泉)という意味のギリシア語、mimos(ミモス)をおもじりして名づけられたそうです。


内気なパントマイマー、繊細に感応する道化師のようなお辞儀草、Mimosa pudica に変わって、二つ名ミモザを譲り受けたアカシア属は、華やかな色香で人類を魅了しつつ、ミモザという名で春のお花関連市場を席巻しています。


そんなアカシア属は、世界中で1000種以上が確認されている植物界の巨大クラスターです。


2億年前に存在していたと考えられる超大陸ゴンドワナに起源をもち、大陸が分岐したのちは各地の環境に適応し、先住民によって伝統的に親しまれてきました。


オーストラリアでは(またまたややこしいことに)一般的にワトルと呼ばれ、先住民は根元からたんぱく源となる芋虫を採取し、樹液を薬として活用し、枝幹からブーメランや盾などを作っていました。


古代エジプト時代には薬用植物として活用されており、若葉や若枝、種子は食用になり、根に切り込みを入れて水を確保していました。


アカシアの枝を捧げられた女神ネイトは、アカシアの樹に棲む、天地創世の大いなる母神として、イシス神やハトホル神と同一視されています。


学名や呼び名の混同歴史を整理するだけでも骨が折れるアカシアですが、英語表記にするとAcacia (アカシャ、アケイシャ、アカキア)です。


元はギリシャ語由来で、棘などの突起物を意味することばだそうですが、アカシャはインドで虚空を意味することばでもあります。


物質のもとになる四大元素(火風水土)と、そのすべてを産出し包括する空間である虚空(アーカーシャ)をいれて五大要素とし、宇宙のしくみや秩序を考察する体系があります。



すべてでありつつ虚空である。


色即是空、空即是色。


アカシア/ミモザはリアルな存在感を示しつつも、学名や通称という命名魔術では縛り切れなかった、圧倒的「虚空力」をもっているのかもしれません。


(虚空力ってへんなことばですが、何者でもなく、すべての者である、みたいなことを言いたいのでした;)


シュメール・バビロニアではイシュタル(イナンナ)の聖木とされ、その成長の早さから生命力のシンボルツリーとして崇められていました。




冬の太陽


現在では園芸、ハーブ、アロマ市場の牽引力も相まって、ミモザといえばアカシアの黄色い花で、ほんのり甘くやわらかい、パウダリーな香りを熱狂的に愛する方々をお見受けするようになりました。


そんなミモザ熱狂信者の方とハーブ園にて撮影してまいりましたのが本日の表題写真。


園内はローズマリーと梅、蝋梅、水仙、クロッカス、菜の花、すみれ、パンジー、ヴィオラなど咲き誇っておりました。


アカシア属はその多くがオーストラリアとアフリカ大陸に自生し、土地柄を想像すると分かるように、深く深く地中に根を伸ばし、雨の少ない砂漠にも自生できる乾耐性植物です。


ミモザ、アカシア


日本の環境とは相性がよいとはいえず、あまり広がらなかったアカシア/ミモザですが、ときおり関東以南でみかけるものはフサアカシア、学名 Acacia dealbata が多いでしょうか。


ミモザの精油もフサアカシアの花から溶剤抽出法で得られるものが市販されています。


2月にはフランスで、9月にはオーストラリアで、ミモザの花を中心とした春のまつりが開催されるそうです。


冬の太陽とも呼ばれるミモザの花は、春告草でもあるんですね。


アカシアの樹皮からは上質なタンニンとゴム性物質が得られます。


とくに樹脂を活用しているアカシア属に、アラビアゴムノキと呼ばれる種があり、アラビアガム(アカシア樹脂)は良質な乳化安定剤として、アイスクリームやキャンディ、ガムシロップなどに、はばひろく使用されています。


医薬品の錠剤コーティング、絵の具やインク製品、切手の接着糊、絹布地に光沢をつける剤にもなっています。





道(タオ)と化す師


映画インディ・ジョーンズ・シリーズの、レイダーズ/失われたアーク「聖櫃」で一躍有名になった「契約の箱」は、モーセの十戒が納められたとするフシギ箱ですが、アカシアの木でつくられたと伝承されてきました。



アカシアの木で作られた箱は長さ130センチメートル、幅と高さがそれぞれ80センチメートル、装飾が施され地面に直接触れないよう、箱の下部四隅に脚が付けられている。

持ち運びの際、箱に手を触れないよう2本の棒が取り付けられ、これら全てが純金で覆われている。

そして箱の上部には、金の打物造りによる智天使(cherubim ケルビム)2体が乗せられた。


契約の箱には十戒のほかに、ヘビに化けたり雹ひょうを降らせたり海を割ったりで有名な、自然界を操る筋金入りの魔法杖「アロンの杖」と、荒野をさまよいカナンの地にたどり着く40年ものあいだ、イスラエルの民全員のおなかを満たし続けた奇跡の食べもの「マナ」入りの金壺が納められたといわれています。


人類が「契約の箱庭」ともいえるような地球社会を形成してきた数千年のあいだ、アカシアでつくられた「契約の箱」はどこをどんな風に渡り歩いていったのでしょうか。


もしかするとアカシアは、女神ネイトやイシュタルの庇護のもと、現世で命名によって支配されることから逃れ、本懐を全うするために正体をぼんやりさせたまま種を広げた、特殊植物なのかもしれません。


「契約の箱」に抜擢されたのは、アカシアの枝葉・根っこからのびるエーテル体が、四大元素界を生み出し、包みこんでいる第5の要素「アカシャ」とのきざはしで、あるいは「空」そのものを形成している箱だからなのでは、と妄想しています。


内気な道化師、ミモザの名をかりたアカシアの花は、世を忍ぶ仮の姿。


しかしてその実体は、真摯に道を求める人に「契約の箱庭」から脱出する方向を指し示すトリックスター。


海をまっぷたつに割ることのできるアロンの杖で、道なきところに道をつくる、道化師(マスター)なのでありました(なんちゃって)。


銅色の女の娘たち


カナダ先住民ヌートカ人の血を引く詩人・作家のアン・キャメロン(1938年バンクーバー島生まれ)が伝える道化師は、常に生活のただ中にいて、どの村においても重要な存在であり、村長や呪術師、踊り手や詩人と同じようにリスペクトされていたといいます。


それでいて、とくべつに聖なる存在とみなされることはなかったとも。


サーカスに出てくる道化ではないのだよ。先住民の道化師だ。侵略者どもがやってくる以前、私らと共に生きた道化のことだ。


私らの道化師はさまざまな衣装を身につけた。

時おり人前に現れてはこっけいなしぐさを演ずるのは、人を笑わすためではなかった。


たとえば着る物について、あまりに見え坊だったとすると、急に道化がとびだしてきて、おまえが歩く真後ろを、何とも凄まじいごてごて衣装を着て歩く。


おまえがむやみに威張って歩くと、道化もそっくり真似をする。


民を代表する議会が馬鹿なことを決めると道化は議会にぬっと姿を現した。そして指導者たち一人一人が議会でとった行動を、逐一真似して見せたのだ。


おまえが自分のしゃべる言葉を、どれも、けっこう至極の福音だとでも考えたなら、道化はおまえの後ろをぶらぶら歩き、まるで白痴か赤子のように片言でぺちゃくちゃしゃべる。


おまえがきげんを損ねて怒鳴ったり、腹立ちを押さえることを学ばずにいたとする。そんな時、道化師はせっせと発作を起こす。後ろをふり返って見てごらん。道化が杖で地面の砂をたたいている。あるいは阿呆のように岩を蹴とばしている。さもなければカモメに悪態をつき、何とも馬鹿げた様子をする。


「銅色の女の娘たち」アン・キャメロン


道(タオ)を化かすのか、道(タオ)を化けさせるのか、あるいはその両方をやってのけるのか、いずれにせよ道化師というお役目は、身振り口ぶりを真似するだけで、自己に溺れ正体を見失った人々を救済する、道(タオ)と化す師だったのではないのかな、と。


「銅色の女の娘たち」という物語のなかでは、道化のなかでもっとも有名だった女道化師が、白人社会にのみこまれていく時代をどのように生きたのかが綴られています。


「人々は教会に通い、おさだまりの成り行きとなった。
何をすべきか、何を着るか、どう生きるべきかまで、命令されるようになった。
白人のように暮らすことを学び、白人のように装うことを教わるのだと」


キリスト教によって島は分断され、土地を奪われ聖書を手にした村の人々は、丘に建つ石の教会の、空を突き刺すような十字架を見上げて、いちどは道を見失いますが、女道化師の活躍によって目を覚まします。


「民が異なれば行動の仕方も異なるものだ。
一つの仕方のみが正しく、それ以外の仕方は間違っているなどということは、あり得ない」


しかし白人による貿易会社が進出してくると、村の人々はアザラシやラッコを殺しに殺して、その毛皮と引き換えにラム酒を手に入れるようになります。


女道化師はもちろん、白人たちの貿易会社に出向くのですが、途中頭を銃で打ち抜かれて死んでしまうというお話です。



ミモザの香りが鼻先をかすめると、古いにしえの道化師たちを思い出します。


道を示し、道と化す。


ほんらいの道化師という概念が損なわれないように、アカシアの木でつくられた「契約の箱」に乗りこんだ古いにしえの道化師たちは、いまも虚空のどこかを旅しながら、次の幕ステージが開く時代にそなえて、道をディレクションする研鑽を、磨いているのかもしれません。


☆☆☆


お読みくださりありがとうございました。
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