aroma72 ハーブ天然ものがたり

魔術から化粧品、厨房から医薬まで。ハーブ今昔、天然もの、所感まじり。

マジョラム/オレガノ

山の喜び


精油として流通市場にのったマジョラムは、
学名 Origanum majorana オリガナム・マヨラナ、
シソ科ハナハッカ属に分類されるハーブのひとつです。


オレガノ


ハナハッカ属には有用で香り良いハーブが数種あるので、マジョラムは
スイート・マジョラム、ノーテッド・マジョラムと呼び区別されています。


ノーテッド(knotted marjoram)の呼び名は、花序が結び目のように見えることからついた愛称です。


小さな白い花がこんもりした結び目のようにみえるマジョラムで花冠をつくり、新婚カップルの頭を飾る風習は、ギリシャを中心に長いあいだ伝承されてきました。


その一方で、ワイルド・マジョラム(オレガノ)を含めたハナハッカ属のハーブは、弔いのため墓地に植えられ、亡くなった人の魂に平安があるように、祈りとともに捧げられるハーブでもあります。


オレガノはブーケガルニやトマトソースの香りづけでおなじみですが、マジョラムより辛味の効いた香りがします。


和名でハナハッカ、別名ワイルド・マジョラム、またはコモン・マジョラムと呼ばれ、キッチンハーブとして世界中でポピュラーになりました。


オレガノの花



もともとオレガノはイタリア料理の定番香味素材ですが、メキシコ料理のチリソースにも使われますし、お茶として飲用したり、ポプリやドライフラワーに多用されています。


ほかにポット・マジョラムと呼ばれる種は、
別名フランス・マヨナラ、若葉のころの金色がかった緑の葉が特徴的です。


成長した葉も金色がかっているのはゴールデン・マジョラム、
寒さに強い半耐寒性のウインター・マジョラム、
小さな葉が巻きつくようにこんもり繁るクリンクルリーフ、
濃いピンクの花をつけ刺激の強い辛味をもつコンパクトピンクなど、
ヨーロッパ、地中海沿岸、トルコから広がったオリガナム(ハナハッカ)属は多様性を保持したまま世界中で栽培されています。


園芸種でよく見かけるようになったイタリアン・マジョラムは、スイート・マジョラムとオレガノの交配種で、立ち姿はマジョラムに似ています。


学名のオリガナムは「山の喜び・オロスガノス」を意味するギリシャ語です。


オリガナム(ハナハッカ)属が山の斜面をおおい、空気が香りに満ちている様子を表現したものといわれています。


タイム、ミント、セージ、ローズマリーを合わせて、さらにほんのりと甘さを足したようなマジョラムの香りは、よく知っているようで、誰とも何とも似て非なる、唯一無二の芳香です。


山を御神体とする思想は、古い時代から世界共通の認識ですが、斜面をおおうハナハッカ属は大気を神聖な芳香で満たし、山神をヴェールで包みこんで花のノーテッド(結び目)をちりばめ、大地をお守りする役目を担っているとくべつなハーブなのでは、と想像しています。


地表に生きるすべての生命種を生み育てるために、滋養となる食物を生み出す豊穣神にお仕えする、誠実で真摯な小天使たちなのではなかろうか、と。




海神の恵み


山の喜びと称されるマジョラムですが、そのハーブの特別な芳香は、海から生まれた女神アフロディテによってつくられたと伝承されてきました。


(アフロディテは)古くは東方の豊穣・多産の女神アスタルテー(アスタルト)、イシュタルなどと起源を同じくする外来の女神。


オリエント的な地母神且つ金星神としての性格は、繁殖と豊穣を司る神として、庭園や公園に祀られる点にその名残を留めている。


グレゴリオ聖歌でも歌われる中世の聖歌『アヴェ・マリス・ステラ』の「マリス・ステラ(Maris stella)」は、「海の星」の意味であるが、この星は金星であるとする説がある。


聖母マリアがオリエントの豊穣の女神、すなわちイシュタルやアスタルテー(アスタルト)の系譜にあり、ギリシアのアプロディーテーや、ローマ神話のウェヌスの後継であることを示しているとされる。


ウィキペディアーアプロディーテ


アスタルト、イシュタル⇒アフロディテ⇒聖母マリアという系譜は、いろんな文献、ネット上にも散見しています。


総合的な女神力を光と影に分離して、圧倒的な光と、徹底的な影をつくりあげてきた歴史があったんだなぁと、あらためて窺い知ることができます。



古い系譜の女神イシュタルは人類史最古の物語といわれるギルガメシュ叙事詩に登場する大女神です。(イシュタルはアッカド語、シュメール語ではイナンナ)


BC1800年頃の「バーニーの浮彫」はイシュタルを示すと考えられており、翼と鉤爪をもち、ライオンとフクロウを従える姿はリリスやエレシュキガルともいわれます。



「夜の女王」バーニーのレリーフ

リリス、エレシュキガル(メソポタミア神話・冥府の女神)

またはイシュタルのいずれかの可能性のある彫刻


女神リリスについての見解は

松村潔先生のYoutube動画で紹介されているものが面白かったです。

松村潔 - YouTube



もうひとつの系譜、アスタルトはウガリット神話に登場する女神です。


地中海東岸で栄えた古い文明のひとつウガリットは、BC16世紀-BC13世紀に全盛期を迎えた都市国家で、エジプトやキプロスと緊密な外交関係があり、独自の表音文字であるウガリット文字をもっていたといいます。



現代のユダヤ教、キリスト教の聖書へつながる、カナン神話の原型はウガリット神話集ともいわれます。


アスタルトはウガリット神話における最高神イルの妻、あるいはイルの息子であり主神となったバアルの妻ともいわれる中心的女神です。


最高神イルはバアルの父でありながら地上世界に姿を現さないあたり、分化されていない天空神と見ることができ、イルから分化して地上降下したバアルが主神となってウガリット神話を形成してゆきます。


バアル神は古代オリエントで天候の神・嵐の神として信仰されていました。


海神ヤム・ナハルと死の神モートは、最高神イルから生まれたバアルの兄弟ですが敵対しています。


ヤムは荒々しい自然界の水、モートは人を死に至らしめる破壊神。


妻の女神アスタルトとともに、兄弟戦争を勝ち抜いていったバアルの物語は、混然一体となっていた冥府と現世をきっちりと分けて生死の境界線を引き、荒々しい水を治水して海と陸地を分け、ヒトの生きる場所を土元素界に定着(あるいは限定)した人類史はじまりの神々のおはなしです。


混沌の海から天地明快に分かたれ、海と陸と空が生まれた時代。


生息域を地表に限定した、はじまりの人類にとって、豊穣・繁殖の神ほど魅力的な信仰対象はなかったと思います。


ウガリットでバアルとともに熱心に崇拝されたアスタルト女神は、晩年のソロモン王にも崇められたことが記録に残されています。


時代の変遷とともに、その人気の高さは唯一神ヤハウェ信仰の脅威と考えられたことは想像に難くありません。


旧約聖書にはアスタルトは「恥」を意味するヘブライ語、ボシェトの母音を読み込んだ蔑称アシュトレトと表記され、複数形のアシュタロトは異教の女神を指す普通名詞になりました。


のちにヨーロッパのグリモワール(魔術書)に、ドラゴンの背にまたがり手には毒蛇、そして両翼のある悪魔アスタロトが登場します。

アスタルトは、地中海世界各地で広く崇められたセム系の豊穣多産の女神。崇拝地はビュブロス(Byblos、現在のレバノン)などが知られる。

メソポタミア神話のイナンナ、イシュタル、ギリシア神話のアプロディーテーなどと起源を同じくする女神と考えられ、また周辺地域のさまざまな女神と習合している。

(女神)アスタルト

アスタロト(Astaroth)は、ヨーロッパの伝承に伝わる悪魔の一人。

種々の魔術や悪魔学の文献において高位の悪魔として扱われる。


アシュトレトは中東から地中海沿岸にかけて広く伝わる豊穣神の一形態であり、メソポタミアのイシュタルやギリシアのアプロディーテーと起源を同じくすると考えられている。

(悪魔)アスタロト



ウガリット神話では、海神ヤム・ナハルはドラゴンの姿で、女神アスタルトは同胞の出自であるヤムのからだをバラバラにしてまき散らすようバアルに進言したと記されています。


海が凪いで陸地があらわれたのは、海神ヤムが創造降下によって分化し、海の力を川の流れにこぢんまりとまとめて、陸地につないだからではないのかな、と。


それを神話では、バラバラ案件として扱っているのではなかろうか。


そんな龍神、水神の同胞である女神アスタロトは、のちにアフロディテとして海から誕生し、地表にマジョラムの芳香というヴェールをかけて、あたらしい試みとなる土の時代-土の上に生きる生命種がそのいのちを謳歌できるよう-大地をお鎮めになったのではないかしらん。




混沌の海から天地がうまれた時代


ウガリットと緊密な外交関係があったとされる古代エジプトでも、ハナハッカ属は薬用と料理用に栽培され、ワニの姿をした神セベクに献上したという伝承があります。


エジプトの創造神話のひとつに、天空神である混沌の海ヌトから最初に現れたのはセベクだったというものがあります。


ナイル川の神であり豊穣の神でもあったセベクは、鰐の姿、また鰐の頭をもつ軍神でもありました。



エジプト神話のバラバラ案件では、分化して地上に拡散されたのは植物神であり冥府の神となったオシリス神です。このときセベクはナイル川の遺体を回収してイシス神を助けたとされています。


BC1991年 – BC1650年ころ、セベク信仰はコム・オンボを中心に特別で重要なものとする気運が高まります。


セベクはのちにオシリスをバラバラにしたセトと同一視されるようになり、さらに後の時代には太陽神ラーと習合してセベク・ラーとなり、さらに時代が下ると大地の神ゲブと習合されます。


オシリス信仰では息子のホルスがセベクの姿となってナイル川に散らばったオシリスのからだを回収したという説もあります。


セベクは、ウガリット神話の主神バアル、アスタロト女神、海神ヤムの役まわりを全部ひとりでやっているようでもあり、お話の筋はよく似ています。


そんなワニ神様は天地がまだ未分化の混沌の海から出でて、海を治め、大地を鎮魂、平定して、固められた陸地に緑を生い茂らせた豊穣神として、アフリカ大陸最長級のナイル川に君臨してきました。



対立・争い・裏切り・疑心暗鬼を主軸とするソープオペラ的神話には辟易しているという個人的な感想もありますが、見方を少し変えるだけで、神々の協同作業によって混沌の海から、空と海と大地をつくる誕生物語となり、バラバラ案件は生命種が繫栄するようハイヌウェレ型の神々が分化降臨したことで、地上に果樹やハーブ、穀物が実るようになったという、楽園創生的な神話につくりかえることもできるのではないか、と思います。


天地の界なく混沌の海から誕生した神々は、やがてイシュタルに、アスタルトに、アフロディーテに姿を変えて、ハーブの全てを想像させつつ誰にも何にも似ていない唯一無二の芳香をマジョラムに授け、大地をよろこびで満たすように天命を与えたのではないかな、と。


マジョラムの香りには、天と地と海が生まれたころの壮大な神話を思い出す秘密が、隠されているのかもしれません。


☆☆☆


お読みくださりありがとうございました。
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