aroma72 ハーブ天然ものがたり

魔術から化粧品、厨房から医薬まで。ハーブ今昔、天然もの、所感まじり。

いたどり 虎の杖

スッカンポン


私が生まれ育った札幌の家は、裏手に30坪ほどの空き地があり、誰も来ないので勝手に裏庭と呼んでいました。


幼少期の思い出がたっぷり詰まっている裏庭は、
エノコログサにメヒシバ、カタバミ
オオバコ、イタドリ、たんぽぽ、スギナ
蕗によもぎにシロツメクサ
はこべ、つゆくさ、すすきにコンフリー
あじさい、山ぶどう、水仙、月見草
野生のアスパラ(毎年収穫が楽しみだった)など
季節ごとの花や実が楽しめる、クサの宝庫でした。


アスパラを折るときはパキッと音がして
いたどりを折るときはポンッと音がします。


いたどり


いたどりは竹のように、なかが節のある空洞なので、折る位置や速度によって、ポッ とか、ポゥンとか、パンッとか、いろいろな音が楽しめました。


折ってすぐに皮をむいて齧りつくと、酸っぱくてクサの香りがして、エグミがいつまでも口のなかにのこります。


大人たちがスッカンポと呼ぶ名の響きがこれまた酸っぱエグイ味にぴったりだったのと、ポンポン音を立ててもぐのが楽しかったのもあり、スッカンポン、スッカンポンといいながら、雪どけた春の裏庭でよく遊んでいました。


いたどりは葉が開いてしまうと固くなり、アクも強くなって空洞部に虫が入っていることがあります。


一年中常備菜として活用する地域もあるそうですが、下処理に手間のかかる食材なので、うちではもっぱら、やわらかい茎に葉が広がる前のものを摘んでいました。


大きな鍋で沸騰しない程度にお湯を沸かして、いたどりの茎を湯に浸し、2、3分してから冷水にとって皮をむきます。


一晩塩水につけてアクを抜き、サッと油で炒めたり、酢の物にしたり、味噌汁に入れて戴きます。

いたどり



裏庭(と勝手に呼んでいた空き地)は、冬は屋根伝いにソリ遊びができる着地広場になり、でっかい雪だるまを作り、雪のお城をこしらえたり、雪の秘密基地をつくったり、自然あそびの楽しみを教えてくれた思い出の場所です。


雪がとけると毎朝、てのり文鳥のためにハコベを採りにいき、夏休みのやっつけ宿題には裏庭のクサを片っぱしから摘んで押し花にしました。


手づくり酵素にはまっていた頃も裏庭のクサたちで、ほぼ材料がそろってしまうのでたいへん重宝しておりました。


もう10数年ほど昔、札幌の生家を手放していよいよ解体するという前に、裏庭に小さな椅子をおいてぼんやりと、クサたちにお別れを告げながら、マインドマップをたくさん作りました。


いたどりから感じられるエッセンス(というか本性のようなもの)は、いつもおおらかで屈託がなくて「食えるときにたらふく食っとけ」とか「休めるときはしっかり寝ておけ」とか言うような、よくいえば面倒見がよくて頼りになるアニキ、崩していうならズケズケとこちらの領分に入りこんでくる遠慮のないアニキという風で、もう会えなくなると思うと寂しさがひとしお身に染みて、しばらく裏庭に座り込んでいました。


いたどりはとても大きくなる草本ですが、裏庭のいたどりたちは、山ぶどうのツルに絡まれて、ある程度以上は大きくならないように制御されているようにも見えました。


「根はいいやつなんだけどね。武骨で無遠慮、おまけに鈍感ときてるからさぁ、ほっといたらどんだけおがるか(育つか)わかったもんじゃないっしょ、だからゆるっと締め上げて、教えてやってんの。他の小さい子たちも、光と水は必要なんだよ、ってさぁ」とは、山ぶどうのマインドマップに記されたことばです。


生家のあった場所も、裏庭も、いまは大きな駐車場になり、コンクリートが敷かれています。


けれど不思議なことに近所にいくことがあると、小さい頃に覚えた裏庭の香りが鼻腔をかすめて、クサたちの声が聞こえるような気がします。


土のなかで、いたどりと山ぶどうが変わらずに、やいのやいのと言いあっているような。




虎の杖


いたどりは漢字で板取、または虎杖と表記します。
タデ科の多年生植物で、道端、荒れ地、土手など、場所を選ばずどこにでも群生し、遠慮なく大地を覆ってしまいます。


北海道で親しんでいたのはオオイタドリの方だと思いますが、本州以西に多く自生するいたどりとの自然交配種もあるようです。
いまはイタドリ、またはオオイタドリの名前でサプリメントや、粉末にしたものが市販されています。


若葉をもんで傷口につけると、止血され痛みが和らぐことから「痛み取り」でいたどりになったという通説があります。


虎杖の漢字をあてたほうは軽くて丈夫な茎が杖に使われていたこと、そして茎の虎斑模様で虎杖(こじょう)とよばれていたから、といわれています。


北海道の白老町にある虎杖浜(こじょうはま)は、アイヌ語でクッタルシ(いたどり・群生する・ところ)という意味で、虎杖の群生する浜 ⇒ 虎杖浜となりました。


近場に倶多楽湖くったらこがありますが、こちらも「クッタルシにある湖」というアイヌの呼び名が由来になっています。


いたどりの別名スッカンポはご当地訛りが入っていると思います。
一般的にはスカンポ、ほかにもイタズリ、イタンポ、ドングイ、スッポン、ゴンパチ、エッタン、ダンチ、タンジ、ダンジ、スイバ、サイタナなど、地方によってさまざまな呼び名があります。
ニックネームがたくさんあるというのはそれだけ愛されてきた証ですね。


がけ崩れなどで荒れた土地にいち早く根をはるパイオニア・プランツ(先駆植物)で、短期間であっというまに大きくなります。


太く強く、生長の早い地下茎でつながっており、土地を崩れにくくする役割も担っています。


多年生なので冬になると地上部は枯れてしまいますが、根はしっかりと生きており、その根茎を水洗いして天日乾燥させたものは虎杖根(こじょうこん)という生薬になっています。


東洋医学では、いたどりの根は抗炎症作用があり、血流をよくして、傷や、月経不順、関節痛などによいとされています。


江戸時代の農書『親民鑑月集』には、春野菜として、いたどりが記されています。
若芽は天ぷらにしたり、葉を乾燥させてハーブ水にしたりもできますが、ほうれん草と同じシュウ酸をたくさん含んでいます。


シュウ酸は現代医学では、尿路結石の主な原因とされているので、アク抜き大事ですね。
シュウ酸は水溶性なので茹でるとかなり抜けるとは思いますが、やはりいたどりは生命力の強い野草なので念には念を入れて、アク抜きしっかりしてから戴くのがよいのかな、と。


今回いたどりの記事を書くにあたって、はじめて知ったのですが、戦時中はタバコの葉が不足していたので、いたどりの葉をタバコに混ぜていたそうです。
インドや東南アジアでは、イタドリの葉を巻いたものを葉巻の代用としているといいます。



いたどりアニキのスピリット


いたどりの原産は東アジアで、ヨーロッパやアメリカに帰化した種は、強害草に認定されています。

イタドリは世界の侵略的外来種ワースト100 (IUCN, 2000) 選定種の1つでもある。イタドリは生長が早く日本からヨーロッパに導入されて土壌侵食の防止や、家畜の餌に利用された。19世紀には、フィリップ・フランツ・フォン・シーボルトによって観賞用としてヨーロッパへ持ち込まれて外来種となり、特にイギリスでは旺盛な繁殖力から在来種の植生を脅かすうえ、コンクリートやアスファルトを突き破るなどの被害が出ている。


ウィキペディアーイタドリ


過去記事のやどりぎ にも書きましたが、いたどりは西洋文明の礎となった石の建造物をことごとく侵入して壊してしまう、ということで、除草に大変苦労しているようです。


東アジア原産の虎杖(いたどり)は、西洋文明の石文化にまもられてきた秘儀に踏みこみ、新時代のひな型として、あたらしい神話を生み出すハーブのひとつ、(あるいは切り込み隊長)なのかもしれません。


やどりぎが光の神をつらぬき、地上界と天界をつなぐ梯子になったように、いたどりは鉱物界をつらぬき、地に堕ちた光と影の膠着状態に、うごきを生みだそうとしているのではないかな、と。



以前友人3人で知床を旅した時のこと。
海岸にある大きな岩肌を縫うように、てっぺんまで群生しているいたどりがあまりに立派で生き生きとしていたので、友人Aといっしょに「いたどりがすごいねぇ」と岩のてっぺんを見上げました。


友人Bはいたどりを知らなかったようで「どれ、どこ?」と目線を合わせますが、いくら説明しても同じものを見ることができません。


ほらほら目の前にたくさんあるよぅと、しばらく説明していましたら、なんのことはない、友人Bは「いた鳥」という名の鳥を探していたのです。


ワハハハハッと皆で大笑いしておしまい。
という思い出話なのですが、それから「鳥のような虎杖夢想」が頭のなかではじまってしまい、羽の生えた虎になり、空飛ぶ白虎(びゃっこ)になり、白虎といえば西の方位をまもる霊獣ですなぁと考えているうちに、ふと「裏庭」のいたどりアニキを思い出しました。


いまはコンクリートの下に眠っているいたどりアニキも、スピリットは羽の生えた虎になって、西の空を飛んでいるのかもしれないな、なんて西日を見るたび「裏庭」の思い出とともに感傷に浸っています。


☆☆☆


お読みくださりありがとうございました。
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