aroma72 ハーブ天然ものがたり

魔術から化粧品、厨房から医薬まで。ハーブ今昔、天然もの、所感まじり。

桑 絹を生む霊樹

お蚕さんと桑


桑といえば蚕(かいこ)のエサとなる葉を茂らせる、地球上で唯一無二の樹木です。


蚕のマユからつくられる絹糸は、明治のころの基幹産業で
当時の日本を支える重要な輸出品でした。

桑


養蚕業が全盛期だった昭和初期は、桑畑の地図記号もあり
日本の原風景としての一時代を築いた植物といっても過言ではありません。
桑畑は全国の畑地面積の4分の1を占めていたそうです。


日本の野生原種、ヤマグワと
中国原産種とされるマグワのほか
10数種ほど変種が確認されています。
ひとつの木に切れ目のある葉と、入らない葉をもつ
葉のかたちが一定ではない、めずらしい姿形をしています。


絹、シルクを生み出すかいこは
神蠶(かみこ)から転じたことば、という説があります。
蠶は蚕の旧字体、蚕という漢字をひらくと天の虫です。


古事記や日本書紀には、神の身体から食物が生まれた物語が収載されています。
世界中の神話にもおなじような話は伝承され「ハイヌウェレ型」と呼ばれています。


古事記では稲、穀類のほか、神の頭から蚕が生まれました。
日本書紀では眉の上(第3の目、アジナチャクラ)から誕生したとされ
天照大神は蚕のマユを口に含んで糸を紡いだという記述ものこされています。



絹はセリシンとフィブロインというたんぱく質でできており
ヒトの皮膚に似たアミノ酸組成をもっています。
セリシンは、セリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、スレオニン、アラニンで、角質層にある天然保湿因子に似ています。
フィブロインは、グリシン、アラニン、セリン、チロシンで、真皮層にある組織に似ています。


きものを着る人は覚えがあると思うのですが
帯を締めるとき、耳ざわりのよいキュッキュッという音がします。
衣服を身につけることが、ひとつの儀式のように感じられる
気も身もいっしょに、キュッと引き締まる音です。


和裁の先生のお話メモから引用します。

「絹繊維はフィブロインというたんぱく質の糸がもとになっており

その断面をみると、なめらかな三角形をしている。

だいたい150 本ほどの束で、一本の絹糸になる。

絹織物はフィブロインの角がこすれて音が鳴るといわれており

これを絹鳴りという。


絹鳴りはフィブロインを包んでいるセリシンをとかして

フィブロインだけになるよう精練された絹に限られる。

生絹や紡ぎ糸では音はならない。


今は化学繊維の反物も多く出回っている。

風合いがまったくちがうので、すぐにわかるけれど

帯を結ぶときの音でもよくわかる。

むかしは三味線、琵琶、琴の弦を絹でつくっていた。

そもそも絹は音を奏でる繊維だった。


絹の手触りや風合いは染料で変わる。

しなやかさ、滑らかさが増して、シャリ感、コシが低下する染料もあれば、逆にシャリ感、コシは出るが、しなやかさが低下する染料もある。

つかう染料によって絹の風合いはおおきく変化する」


絹の唯一無二なる存在感は、蚕なくしては得られず
さらには桑の葉なくして得られず、ということなんですね。



健康食品としての桑


桑の根皮は桑白皮(そうはくひ)
葉は桑葉(そうよう)
枝は桑枝(そうし)
果実は椹(たん)、桑椹(そうじん)、桑椹子(そうしんし)
という名で生薬になっています。


利尿、鎮咳、去痰、消炎、強壮作用が知られており
果実は倦怠疲労、不眠、かすみ目、便秘によいといわれています。


桑の葉茶は、大きく生長した葉を天日干しにして揉みつぶし
すり鉢などで細かくしたものを、抹茶のようにして飲んできました。
ビタミン、ミネラルが豊富で、なかでもカルシウムの含有量はとくに高いといわれています。
ウィキペディアには「便秘改善、肝機能強化、脂肪の抑制、糖尿病予防などの研究報告もされている」とあります。



桑の実は、現代ではマルベリーと呼んだ方がピンとくる方も多いかもしれません。
日本の歴史にも古くからあり、縄文集落跡の三内丸山遺跡から
大量のマルベリーの種が出土しています。


果実は6月から8月にかけて赤黒く熟し
そのまま食べたりジャムにしたり、果実酒にしたりします。
ビタミンCと、抗酸化力の高いポリフェノール・アントシアニンが豊富です。


果実が熟した色を土留色(どどめいろ)といって
小学校のプール実習で、先生がよく「唇が土留色になったら無理しないであがってこいよー」と言っていたのを思い出します。
北海道の夏は短く、そう暑くもなく、現代とちがって野天プールでしたから、プール実習で体温下がる子はめずらしくありませんでした。
実際は赤黒い土留色というより、顔面蒼白になって、くちびるが紫色になる状態を、土留色と表現していたように思います。
でも水遊びが楽しくて、プールから出ていかない土留生徒が、けっこうな割合でおりましたっけw


顔色の悪い人をどどめ顔と呼んだり
どどめ先生とあだ名をつけられた先生もおりました。
(いつの時代も子供は無邪気で残酷です)
「どどめ」という響きがこどもに伝わりやすかったというのもあるでしょうし、昭和40年代は、桑の木はもっと身近な樹木だったように思います。


JR札幌駅のおとなりに桑園という駅があります。
明治のころ養蚕のために広大な桑畑がつくられたエリアでした。
(いまでは見る影も残されておりません)
霊力の宿る木と称される桑林が広がる町は
いったいどんな風合いだったのでしょう。


桑畑のひろがる日本
記紀神話に登場するオオゲツヒメの女神や
ウケモチの神が創造分化し、地上に降ろした梯子をつかって
八百万の神々が往来する時代の気配。
絹のようになめらかでコシのある空気感が漂い
神も人も、動物も植物も虫たちも
やさしい気配でつながっている
そんな気がします。



くわばら、くわばら


雷が鳴ると「くわばら、くわばら」と唱える呪文。
これも昭和40年代には定説のように口承されていました。


雷さまは桑の木を避けるもんだと、こどもの頃、聞いた覚えがあります。
「桑原」は、菅原道真がもっていた土地の名で
その地に雷が落ちることがなかったから、というお話が
いちばんはじめに聞いた理由です。
雷の正体は、実は菅原道真公、その人だからと
つけ加えて説明してくれる大人もいました。


日本の口承物語に、雷神があやまって井戸に落ち
井戸の蓋をされて天に帰れなくなったときに
自分は桑の木が嫌いだから、桑原桑原と唱えれば
二度とお前のところには落ちないと、カミングアウトした説もあります。


雷神が自分の嫌いなものを告白するなんて
面白い時代もあったもんだなぁとほのぼのします。
神も人も、地球上全てのものが絹織物のように
縦糸横糸でつながり、梯子を紡いでいる。
自分史において、見えないつながりを意識するようになり
糸や布をエーテル体のようだと感じるようになったのは
桑原のお話しを聞いたころから、はじまっていたのかもなぁ、と。


☆☆☆



お読みくださりありがとうございました。
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