aroma72 ハーブ天然ものがたり

魔術から化粧品、厨房から医薬まで。ハーブ今昔、天然もの、所感まじり。

カシワ/柏 葉守の神

10月は神無月(神の月)


10月は神無月と呼び、八百万の神々が出雲に集うので
地方に神さまがいなくなる月だと小さい頃聞いてきました。


ハーブに親しむようになると四季折々の四大元素の活躍は
植物たちと不可分なものと気づき、民族特有のカウント
時代ごとの変遷など、いろいろな暦に興味が湧くようになりました。


6月の水無月もそうですが、「無」は「の」と読み
10月は神の月、6月は水の月と聞いてから
そちらの説も(というより、そちらの説の方が)ありなんじゃないか、と思うようになりました。


6月は本州以西では梅雨時期に入り
滋養あふれる水が天からたっぷり降り注ぎます。
10月は収穫と紅葉がすすんで
目にも胃袋にも、地の恵みがたんと入ります。


神の月、神祭りの10月は
春分のころ山から降りてきた精霊たちが
地上でのひと仕事を終えて
秋分を境に山へ帰る月なのでは、と思っています。


色づいた紅葉が落葉し、大地に敷きつめられ
お山のふもとから頂上、そして元素界へつながる道しるべになっているのでは、と。


四大元素も八百万の神々も
植物を媒介に往来している、と考えるなら
春にはやわらかい新芽や花々がお座布団になり
秋には実をつけ、こうべを垂れた植物たちが
地上のうんと近くまできざはしをかけている。
紅葉は葉を落とし、大地に黄金色のじゅうたんを敷きつめて
土元素界のあいだにバッファをつくる。


春分と、秋分は、黄泉平坂の扉がひらく通りゃんせの候。
こちらとあちらでいったりきたりと、にぎやかな往来があるのなら
神の月という呼称もなんとなく腑に落ちます。


そう考えると、植物たちの大仕事は
芽吹きの春はもちろん、秋の送別エスコートも重要で
元素界や天界へ、マレビトたちがぶじにお帰りいただけるよう
往来のきざはしを守護する役回りもあるんじゃないのかな、と思います。



葉守りの神が宿る木


「葉を守る神」が宿るといわれる柏の木。
黄葉終わり、葉は枯れてカッサカサ、茶褐色になっても落葉せず
春頃までこらえているのが柏の葉です。


柏


柏餅に使われる、手のひらみたいな葉っぱは
次の春がきて、新芽が芽吹いて押しだされるまで
乾ききった枯れ葉を茂らせたまま
ある種地獄の門番みたいな様相で
見る人をぎょっとさせます。


「枕草子」清少納言 より


「柏木、いとをかし。

葉守の神のいますらむも、かしこし。

兵衛の督(ひょうえのかみ)、佐(すけ)、尉(ぞう)など言ふも、をかし」


とくべつな、なにかがある柏の木。

葉守の神がいらっしゃるような、畏敬の念をいだく木です。

兵衛の督、佐、尉などの異名として、柏木が用いられているのも感慨深い。


「源氏物語」紫式部 では、亡くなった柏木のことを葉守の神と表現しています


「ことならば馴らしの枝にならさなむ葉守の神の許しありきと」


できることなら連理の枝になりたい

葉守の神がお許しくださったという気持ちで枝を交わし合いたいです。


「柏木に葉守の神はまさずとも人ならすべき宿の梢か」


柏木にたとえ葉守の神がいらっしゃらないとしても

ほかの人を近づけてよい梢でありましょうか。


葉守の木、葉守りの神が宿る木として
柏は神が宿る縁起木とされてきました。
系譜が代々続き、柏のように、強くたくましく育ってほしいと願い
端午の節句に使われるようになりました。



英語名はジャパニーズ・エンペラー・オーク、カシワオークと表記されます。
柏は耐火性があり、山火事でも生き残る率が高いことや
寒さにも強く、大きな葉を茂らせることから防風林として活用され
北海道の石狩海岸には、柏の防風林が現存しています。


柏の原生林といえば北海道の中札内美術館も有名です。
蝉やカエル、小さな生き物たちが
大きな葉に守られるように生息し
観光地なので人の手が入っていることを差し引いても
「鎮守の森」はほんらいこんな風で
ヒト以外の生命種が活発に蠢く
常世と現世の端境だったのだろうと想像できます。


夏の原生林では、この世の中から蝉の声以外
いっさい消失してしまったのではなかろうか、というほどの
すさまじい大合唱を堪能できます。
一瞬にして、トランス状態に入り
見ている風景がにじみはじめて
森ほんらいの姿が、垣間見えるような気がします。



こんもり、うっそうとした森は人を寄せつけない畏ろしさがありますが
なかでも柏の木は、枯葉を鎧のように身にまとい
恐怖心をかきたてるオーラを放って森への侵入を阻む、葉守りの木。


「指輪物語」に描かれるオークの醜悪さは
ちょっとやりすぎなのでは?と感じることもありますが
結界をまもる門番は、そのくらいじゃなければ務まらないのかもしれません。



もうひとつの顔


古く日本では調理することを炊(かし)ぐといい
料理を盛りつけたり蒸したりするときにつかう葉を全般
炊ぐ葉(かしぐは)、炊葉(かしきは)と呼んでいました。


photolibrary


ホオノキやオオシマザクラ、ナラガシワの葉も
炊ぐ葉として使用されてきた歴史があるので
「かしは」と呼ばれていましたが
次第に「かしわ」の呼称は柏の葉に集約されていったそうです。


ホオノキのお話はこちらの記事にも



☆☆☆



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