aroma72 ハーブ天然ものがたり

魔術から化粧品、厨房から医薬まで。ハーブ今昔、天然もの、所感まじり。

くろもじ/黒文字 神の依り代

花・蜜のような香しい樹木


老舗の和菓子屋さんで一服するときにでてくる、黒柄の爪楊枝。
それが日本に古くからある落葉樹、クスノキ科のくろもじ(黒文字)であると知ったのはハーブの勉強をしてからでした。
楊枝をクロモジと呼ぶ風習も知りませんでした。


くろもじ


アロマテラピーの資格を取得したのは23年ほど前ですが
当時はまだ、日本国内でアロマテラピーは胡散臭い代替療法のひとつだったので、市場も今ほど活況を帯びておらず、くろもじの精油はなかったと記憶しています。


とはいっても、花のような柑橘のような
柔らかい香り成分をもつくろもじの枝を
古くから爪楊枝として活用してきた日本人の感性はやはりすばらしいです。


香り成分には殺菌作用、抗ウイルス作用があり
枝葉を煎じて飲むクロモジ茶や
肩こり腰痛、関節痛によいとされる入浴剤は
おばあちゃんの知恵袋のひとつです。


くろもじは油分が多いので、水をはじく性質を利用して
かんじき(いまで言うスノーシュー)の材料としても使われてきました。
もちろん燃えやすいので、火おこしにも便利だと思います。



香りある植物は邪を払う


香りのある植物を伝統的な儀式に用いてきた民族といえば
ネイティブ・アメリカンやチベット人などが思い浮かびますが
日本でも、もちろん植物は神事に欠かせない、神の依り代であり代理役です。


正月の門松、餅花、橙
神社のシメナワ、祓のチガヤ
お月見のススキ
神棚のサカキ etc... 


神木としての榊(さかき)は、ほんとうはくろもじだったんじゃないか?
と提唱したのは、民俗学者の柳田国男(1875年 - 1962年)です。

柳田国男先生著作集. 第12冊 (神樹篇) - 国立国会図書館デジタルコレクション


「神樹偏」より


東北地方では、山中に榊を祭る木として(くろもじが)用いられている。

狩りの獲物の一部をこの木に刺して、山神に供える習慣があるだけではなく、その名を鳥木、鳥柴と呼んでおり、この木に鳥をつけて人に贈り、神社の祭りにも捧げていた。


正月の餅花をこの木(くろもじ)の枝に刺し、餅花の木と言っているのも、祭木のひとつのかたちといえる。


神樹偏では、さらに

古人の自然観察はいたって親切であって

同時にその判断は簡単であった。

樹は上空に近いから神の宿り

枝の下へ垂れた木は地上に降りるために

特に選定せられた梯子。


***


榊葉の香をかぐはしき云々というような

この木に香氣があるという古歌の多いことで

今ある眞榊は葉の艶が美しく形もけだかいけれども

これには少しも香がない。


天地をつなぐ梯子として、植物を見ていた古人の感性の片りんは
現代社会でもかろうじて、門松や鏡餅などに継承されています。


門松は神さまの依代(よりしろ)
神さまが訪れるためのしるし
という意味と同時に、お供えものを供して感謝をささげます。
鏡餅はお供えものでありつつ、ご神体でもあります。
その上に鎮座する蜜柑は、マレビトたちの出入り門、ということではないかな、と。


蜜柑のお話はこちらの記事にも紹介しています。


現在市場に流通している榊としてのサカキは
ツヤッとして立派ですが、枝が香ることはありません。
さらに北国や雪国には生育しないので
古典に詠まれた「榊」は別の木だった可能性があるのだろうな、と。
神事における世界今昔共通認識として
香りのある植物は邪気を払うという定説にも、沿っていないわけです。



榊については、いつ、誰がどのように
香氣のない現代のサカキを流布したのかはわかりませんが
香りがつなぐ記憶というのは、いつでも人知をひとっ飛びする、妙薬だと感じています。


竹や松、橙はそのまま縁起物として継承され
くろもじだけが入れ替えられたとするなら
くろもじが放つ香りというのは
日本人にとってなかなかに重要なマレビトの梯子なのかもしれないな、と考えてしまいます。
日本人の古い記憶を呼び覚ます、妙薬なのではないかしらん。



魔道具としての黒文字


植物が香気成分をもつ理由は
誘引効果、忌避効果、種が発芽できるまでの成長を守るため等々
現代的学術見解は出揃ったものの
「植物の香気成分は、依り代としての神々の梯子でありお座布団である」なんて研究発表をしようものなら、ローカル社会からはすぐにはぶられてしまいます。


この香りはこの神様
あの香りはあの神様
なんて研究を堂々と発表するには、合意的現実である同調圧力が大きな壁になっていて、代償が大きすぎるんだろうな、と。
エビデンス最優先の学術界では、四季折々にしみじみと感じ入る
その感性云々といっても通用しない、全くの別社会と考えた方が合理的なのだと思います。



黒文字という呼び名がついたのは、若い枝に黒い藻類が付着して
黒模様が文字にみえるから、という説がありますが
「文字」というものも、線と線の組み合わせなので
エーテル体を表現するもの、と考えています。


くろもじ/黒文字には、エーテル体を集める神木という意味が込められているのかな。


北海道にはオオバクロモジという近縁種があり
この枝で作ったかんじきを友人に見せてもらったことがあります。
道央の山野を一緒にかんじきで散策した時
積雪が多い年で肩くらいまで積もっていたこともありますが
以前訪れた初夏のころ目にした風景とはまったくちがって
少しだけ空に近い視点は、雪がなければ味わえない特別なもの、と感じました。


土元素界から浮きあがって
水元素界の上に立っている感触も
かんじきがなければ味わえないもので
神の依り代である樹木は、空に近づく魔道具にもなるんだなぁ、と思いました。



☆☆☆



お読みくださりありがとうございました。
こちらにもぜひ遊びに来てください。
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