aroma72 ハーブ天然ものがたり

魔術から化粧品、厨房から医薬まで。ハーブ今昔、天然もの、所感まじり。

風の精霊 シルフィード

地をならす森の妖精


シルフィードはラテン語の sylva (シルヴァ・森)とギリシア語の nymphe (ニュムペー、ニンフ)をかけ合わせたことばで「森の妖精」という意味を持っています。
中医学のもとになった五行説でも、風の元素は木火土金水のうち、木の元素にあてはめられます。



植物はもともと風媒花、風によって受粉する植生でした。
約3億8500万年前、水がなくても子孫を残すことができるよう、種を作る植物が出てきて、種子植物から裸子植物や被子植物の祖先が出てきました。
それから被子植物が花をつけるようになり、1億年前ころから派手な花がふえて、受粉に昆虫を利用するようになったということです。


風媒花・笹のお話はこちらの記事にも


風の呼称は季節のうつろいや花鳥風月をあらわす、風情あるものがたくさんあります。


春は東風(こち)、春一番は芽吹きの合図
花風ふいて、花嵐


初夏のそよ風、涼風と
青葉の香る5月の薫風


黒南風(くろはえ)ふいて梅雨入りし
白南風(しろはえ)ふいて梅雨終わる


夏の温風、真夏の熱風
夕立風に御祭風(ごさいかぜ)


夜ごとの南風(まぜ)が水気をはこび
陸風、海風交互して、風死す晩夏の土用凪


秋は稲穂に金風ふいて、
やがて疾風、つむじ風
野分(のわき)、暴風、麦嵐


山からおろしがやってきて
冬の木枯らし、からっ風


風の精霊、森の精霊


風の神と精霊たち


日本の風神が、雷神とセットになっている印象が強いのは仏教美術のなせる業でしょうか。
インド神話では風の神ヴァーユ、こちらも雷の神インドラと結びつけられます。
ヴァーユが仏教に影響して、天部12柱のひとりに風天がいます。
北欧神話やギリシア神話では、東西南北に風の神が配置された4人ユニット。
風のエレメントを神格化、伝説化して、今に伝えている象徴たちです。


風の神々に仕える妖精、あるいは妖怪も、お国によってイメージがずいぶん変わります。
風の精霊シルフィードは、代表的なバレエの題材となったせいか、華奢ではかなげな女性として描かれることが多いです。
日本では妖怪かまいたちや、宮沢賢治の描く風の又三郎といった、ローカル社会に一石を投じる、謎めいた存在。
つむじ風、旋風、辻風のことを天狗風という地域もありますが、天狗もカラスを従え大空を滑空する異界のマレビトです。



風という字をひらくと、凡と虫。
凡は普通で、ありふれていて、特にすぐれた特徴のない、並のことを表現する文字です。
凡例とか、凡器・凡才・凡人などなど、おしなべて凡庸とか。
サンズイをつけると汎になり、ひろくゆきわたること、ひろくて限りがない、汎愛・汎論・汎説・汎神論と、まんべんなく均等に広がることを意味します。


占星術の12星座のなかで、風元素を象徴するのは、双子座、天秤座、水瓶座になります。
共通しているのは、公平にすること、均等にすること。
気移りがしやすいとか博愛主義者といわれるのは、すべてを同等に、平均的に扱おうとする心理傾向がもとになっています。
「ここでしか通用しない」ローカルなルールが息苦しいと感じるのも、風元素の特徴です。



かたよりや偏重をうすめて、植物が繁殖できるよう地をならし、森林を広げ、多様性を均等に広げるのは風の精霊たちのおしごと。


やりすぎると凡庸になり、やがて風化してしまう、なんてこともあるかもしれませんが、小さな社会の風習に風穴をあけて、横広がりに風通しをよくしようとするのは、風の妖精も、妖怪も同じなのかな、と。



やりすぎ凡庸の行く末を描いた(とは個人的な感想)、数々の名作のうち
O・ハクスリー(1894-1963)の「すばらしい新世界」
J・オーウェル(1903-1950)の「1984年」
日本のアニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」
は、風元素がほかの元素、火、土、水元素を凌駕してしまうと、どんな世界になるのか、緻密に設計されたお話だと思います。


「すばらしい新世界」は、シェイクスピアの「テンペスト(嵐)」で、物語の最後のセリフからつけられた題名です。
テンペストは風の妖精エアリエルが、船を嵐で遭難させるところから佳境に入ってゆきます。



虫のしらせ


オーストラリア先住民のアボリジニは、風によって神の意志が人間に伝えられると信じていました。
メキシコのマヤ人は、風は黒と同一で、すべてを飲みこみ同色にすることから、好ましいものではなく、とくに冷たい風は病気をおこすと考えてきました。
ミクロネシアのヤップ島では、西風が吹くと風邪が流行るという言い伝えがあり、数十年前に訪れたときの現地ガイド氏は、「今日は西風が強いからマングローブ散策はやめた方がいい」と提案してきました。



風の便り、風聞、風のしらせ、風の使い。
風がはこんでくるのは温度や湿度だけではなく、目には見えない物質を超えたものも。


追い風吹けば風潮にのり、風評被害で逆風に遭う。
風格、風貌、風采、芸(作)風など、固体の周囲にただようオーラのようなものを、風と言い表す感覚は、誰とでも共有できる便利な言の葉です。



風の精霊は森をつくり、小さな植物たちも公平に、均等に子孫を残せるよう、虫を子飼いにして、植物を虫媒花へと進化させたのかもしれません。



そもそもムシは昆虫のことだけではなく、もっと広範囲の意味をもつ言葉で、人、獣、鳥、魚介類以外のすべての生き物をさす言葉でした。


風神雷神のユニットからは、雷にまつわる虫、さんし(三尸)・三虫(さんちゅう)を思い起こします。
虫のしらせの「虫」は、もともとヒトのからだのなかを棲家として、意識や感情に影響を与える存在と考えられてきました。
虫がいい、腹の虫がおさまらない、という表現も、そうした発想から生まれたそうです。
今風にいうと、潜在意識に棲んでいるナニモノカを、虫と考えていた、ということでしょうか。


道教の教義で、さんし(三尸)は人が眠るとカラダから抜け出して、その人の罪を帝釈天(インドラ神)に知らせると伝えられてきました。


六十干支の組み合わせ


・十干(じゅっかん)

甲・乙・丙・丁・戊・己・・辛・壬・癸


・干支(えと)

子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・・酉・戌・亥


10の干と12の支をじゅんぐりに組み合わせると60通りの組み合わせになります。
庚と申の組み合わせの日(60日毎)に、三尸はカラダから抜け出てインドラ神のもとへいくそうな。
庚申日は北斗七星が降りてくる日とも伝えられています。
ちなみに直近の庚申日は9月4日、つぎは11月3日です。


9月、10月イベントに月見十五夜、十三夜があります。
丸もちを望月に、ススキを風神雷神に捧げる供物として
夜空にムシを解き放ち、北斗七星をゆるりながめるのも、風雅・風流なりにけり、と。




☆☆☆



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