aroma72 ハーブ天然ものがたり

魔術から化粧品、厨房から医薬まで。ハーブ今昔、天然もの、所感まじり。

オレンジ 自然界のお見事マリアージュ

無垢と多産



蜜柑の象徴は無垢と多産。
かんきつ類はその土地に根差した様々な種類が存在します。
ダイダイ、アマダイダイ、イヨカン、温州ミカン、八朔、夏みかん、ゆず、カボス、すだち、ヒュウガ、ポンカン、ライム、レモン、グレープフルーツ、マンダリン、シークワーサー、文旦と、数え上げればきりがありませんが、気候風土に合わせたさまざまな柑橘類があり、多産の象徴そのものという感じがします。


精油になるオレンジの香りは主に3つ。
果皮に含まれる精油はオレンジ油となり、ビターオレンジの花からはネロリが採油され、木の小枝/葉/小さい実やつぼみなどからプチグレンが採油されます。


日本ではスウィートオレンジのことをアマダイダイと呼び、橙色(ダイダイイロ)だからダイダイなんだろう、と思っていたのですが、以前ミカン農家さんに尋ねたところダイダイの木は実がしっかり枝について落ちにくく、新旧の実が一緒に実ることから代々と呼ばれるようになったと聞いたことがあります。
家系代々続くようにと縁起物にもなり、お正月の鏡餅の上に鎮座するのだとか。
今では世界中で、冬至からクリスマス、お正月の風物詩に、オレンジは欠かせないものとなりました。





気楽さと親密さ


お正月にはおこたでみかん、という風景そのままに、こころもからだもほっこりして、気楽にのんびりできる心の状態を創り出す、オレンジの芳香空間。
オレンジ精油は実際、リラックスとリフレッシュ効果のある香りなので、柑橘系の爽やかさと同時に、小春日和の太陽で日光浴しているような温かい気分を醸し出してくれます。


オレンジ果皮の精油に含まれる成分には汚れを溶かす力や、消毒作用もあることから「お掃除にはリモネン」が定着しつつありますし、オレンジ油のお掃除シートも手軽に購入できるようになりました。
ヨーロッパではクリスマス時期にオレンジポマンダーを作ってドアや窓に飾る風習があり、抗菌とともに魔除け飾りとして、クローブ(丁子)を刺してシナモンなどのスパイスを振りかけます。



異界との接点カラー?


日本では縁起物とされ、明るさや親密さ、気楽さを心にもたらす香りと定義されるオレンジですが、西洋ではオレンジは恐怖を生み出す色ともいわれています。
確かにハロウィンはオレンジと黒がテーマカラーですし、神話に登場する「黄金の林檎」はオレンジのこと、という説も伝承されています。
ギリシャ神話で有名なトロイア戦争の「黄金の林檎」は、大きな戦争に発展する火種として描かれています。


たぶん東洋と西洋では、異界との接点に対する姿勢が大きく違っていることが、ひとつの理由ではないかと考えています。
西と東では、もともと民族的に自我のあり方に大きな違いがあって、異なるものは徹底的に排除する、エビデンス主義の西洋は、基本一神教、神様は完ぺきな人型で、動物を崇めるなんておぞましくて想像もできない。
というのに対して日本では、稲荷信仰をはじめとして動物が神様になったり眷属になったり、有機・無機問わずあらゆるものに神様が宿っているアニミズム的信心をもっています。(キツネもオレンジといえばオレンジ色の動物ですね)


そう考えると、異界との接点を象徴するかのようなオレンジ色の果実を、日常にするっと受入れ、縁起物として餅のてっぺんに鎮座させる日本と、オレンジにクローブをまんべんなく差し込んで、オレンジ色を封鎖するポマンダーには、心理的に大きな違いがあるように見えてきます。



まいにち君のことを想っているよ


少し話は脱線しますが、アジア圏で異界出入口ウエルカム、共存するのがふつう、という心理を垣間見た国をひとつ思い出しました。 
バリ島を旅した時に、毎朝夕決まった時間に悪霊へのお供えをもって、あちこちの道端や橋、辻、寺院、建物に納めている人をたくさん見かけました。
悪霊をまいにち気にかけてあげて、嫉妬させないようにしている、という説明を聞いて、なんともほほえましい気分になったものです。
大きな葉に可愛らしく盛られた、米や豆、果物、お花、そして線香(インセンス)。
各家庭ごとに色々なバージョンがあって、街中にいつも、ほのかに甘くて幻想的な香りが漂っていました。 
神の国、精霊の国と呼ばれる所以が、するっと腑に落ちた瞬間でした。



ガブさんのラッパ


甘さと酸っぱさ、リラックスとリフレッシュ、ふたつの相反するものが同居する柑橘系の香りを聞くとき、開発チームの仲間内では「ガブリエルのラッパが鳴り響く」と表現したりします。


大天使ガブリエルは3大天使の一人とか、4大天使の一人といわれる超有名な「神の言葉を伝える天使」で、神のメッセンジャーとも呼ばれます。
洗礼者ヨハネの誕生やイエス・キリストの誕生を伝える「受胎告知」の天使として聖書に登場し、ヨハネの黙示録では最後の審判の日にラッパを吹きならし、死者をよみがえらせるのもガブリエルです。


誕生と死という、有限世界ではまったく相容れないふたつの事象をつかさどる天使が、ラッパをひと吹きするだけでふたつの事象を融合させて、誕生と死の境界線を自在に飛び越える。
自由でいいなぁ。
境界線で区切られたものを、塩梅よくマリアージュして、第3のモノを生み出すってすごいなぁ。


「異界の出入り口」なんて揶揄されるオレンジ色の果実。
甘さと酸っぱさ、リラックスとリフレッシュ、ふたつの事象を融合させてみごとな芳香を表現する柑橘系へのリスペクトを込めて、オレンジの香りが聞こえてくると、「ガブさんのラッパが鳴ってるね」などと言って、仲間内だけで悦に入っております。


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*当ブログで紹介している植物の一般的な性質は化粧品の効能を示したものではありません。